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こんな贅沢な食堂があったなんて。【林ゆうき 10th Anniversary Concert ~劇伴食堂 はやし屋~イベントレポート】

林ゆうき 劇伴食堂

 私が愛してやまないアニメ、『僕のヒーローアカデミア』。

 私は数々の伝説回を残してきたこのアニメのなかで、本当に強烈な印象として残っている話があります。その回は、第23話「轟焦凍:オリジン」。この回をリアルタイムで視聴したあと、私は録画していたその話のオープニングを見返し、クレジットのある部分をチェックしました。

【 音楽 林ゆうき 】

 今回は、私がアニメサウンドトラックをはじめて手に取るきっかけをくれた林ゆうきさんの作曲家活動10周年記念コンサート「劇伴食堂 はやし屋」に参加した、“かんそうぶん”と読み仮名のついたイベントレポートをお届けします。

林ゆうきさんについて、ちょこっと

 林ゆうきさんは、男子新体操選手から作曲の道へと進むという異色の経歴を持つ作曲家です。私が大好きなアニメだけでなく、ドラマ『リーガル・ハイ』や映画『僕だけがいない街』といった数々の作品で音楽を担当されています。公式プロフィールによると、新体操競技に使用する楽曲を独学で自作するまで音楽経験もなかったというから、驚きました。

 そんな林ゆうきさんが作る楽曲の魅力は、感情に正直といいましょうか。楽曲を聴いていると、アニメのワンシーンやキャラクターの表情が浮かぶのはもちろん、私も元気になったり、たまに不安な気持ちになったりして、心が揺さぶられています。気付けば“林ゆうきさんが携わるから”という理由でもアニメをみるようになりましたし、仕事の親友としても本当によく聴いています。

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 さて前置きが思いのほか長くなりました。今回のコンサートについて触れていきます。ちなみに長くなったので、セットリストさえ見られればOKなかたは、林ゆうきさんのnoteをご覧ください。

 

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 開演までの客席に充満するのは、私を含めた観客の大きな期待感。林ゆうきさんの10周年の集大成ともいえるコンサートで演奏されるセットリストに、自分が大好きな作品のあの曲は含まれているだろうか。そんな会話があちこちから聞こえてました。

 暗転した会場に静かに登場したのは、弦楽器とホルンを演奏するミュージシャンの皆さん。そのあとに、バンドとフルート、サックスの皆さんが続きます。そして緊張がピンと張りつめたステージに、林ゆうきさんが登場しました。

 期待感と緊張感が入り交じるなかの1曲目は、林さんのデビュー曲というテレビドラマ『トライアングル』の「cocoon」。そしてドラマ『左目探偵EYE』の「LEFT-EYE」、『DOCTORS 最強の名医』の「DOCTORS」が続きます。 

トライアングル オリジナル・サウンドトラック

トライアングル オリジナル・サウンドトラック

  • アーティスト:TVサントラ
  • 発売日: 2009/02/25
  • メディア: CD
 

 どの曲もストリングスの音色がとても美しく壮大で、一気にステージに引きこまれました。

 そして林ゆうきさんのコンサートでとてもうれしかったのが、このあとに続くMCタイム。どのような意図でこの楽曲を作ったのか、当時受けたリクエストやご自身の境遇などの裏側を含めて、とても丁寧に1曲1曲を解説してくれたのです。貴重な話が聞けただけでなく、林さんの作品との向き合いかたやお人柄が見えたようで、ファンとしてとてもありがたい時間でした。

 そして次に演奏されたのは、『大切なことはすべて君が教えてくれた』の「Prelude」。なんでも「分かりやすいメロディを乗せる日本のドラマにはしたくないが、聴けばこのドラマだと分かる楽曲を」という難しいオーダーに応えた楽曲だったそうです。 

Prelude

Prelude

  • 林ゆうき
  • サウンドトラック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 林さんのアンサーは、単音をパラパラと鳴らすアルペジオを軸にした楽曲構成。同じ構成をした音の群が桜が舞う情景を思い起こさせる、はかなくて美しい楽曲でした。

 そして続くのは『ストロベリーナイト』より「ストロベリーナイト」。この作品は、母が食い入るように視聴していた作品。そのため曲が始まると、当時の記憶がよみがえってきました。

ストロベリーナイト

ストロベリーナイト

  • 林ゆうき
  • サウンドトラック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 MCを挟み次に演奏されたのは、NHK連続テレビ小説『あさが来た』より「あさが来た」「九転び十起き」のメドレー。この朝ドラは大好きで観ていたので、曲を聴いた瞬間に毎朝あささんや新次郎さんに元気づけられて出勤していた頃を思い出しました。 

あさが来た

あさが来た

  • 林ゆうき
  • TV サウンドトラック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes
九転び十起き

九転び十起き

  • 林ゆうき
  • TV サウンドトラック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 そんなほっこりした気持ちをぶち壊す(笑)かのように鳴ったのは、ピアノの激しい不協和音から始まるドラマ『あなたの番です』の「あなたの番です」。ギターのヘビーなサウンドとキリキリと響くストリングスが、このドラマでえがかれていただろう狂気を感じさせてくれました。

 ちなみに、1部ドラマ・2部アニメという構成が組まれたこのコンサート。ドラマ編は『緊急取調室』の「緊急取調室」の緊迫感のあとに、『僕とシッポと神楽坂』の「僕とシッポと神楽坂」のあたたかなサウンドで締められました。

 アニメから林さんを知った私は、今回演奏されたドラマ劇伴のほとんどを聴いたことがありません。しかしどの曲も自然と頭が揺れたり、つい足でリズムをとってしまったりと、音楽に心が揺さぶられているのを感じました。

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 休憩をはさみ、私が林さんを知るきっかけとなったアニメ作品の劇伴パートが始まります。

 1曲目は、林さんが初めてアニメの劇伴を手掛けたという『ROBOTICS;NOTES』より「ROBOTICS;NOTES」。そしてそのまま『ガンダムビルドファイターズ』の「GUMDAM BUILD FIGHTERS」が続きます。どちらもロボやSFを題材にしたアニメということで、力強さや非現実的な打ち込みサウンドが映える楽曲でした。 

ROBOTICS;NOTES [2020Mix] (「ROBOTICS;NOTES」より)

ROBOTICS;NOTES [2020Mix] (「ROBOTICS;NOTES」より)

  • 林ゆうき
  • サウンドトラック
  • provided courtesy of iTunes

 MCを挟んで続くのは、『からくりサーカス』「あるるかん」と『DOUBLE DECKER! ダグ&キリル』「DOUBLE DECKER!」。MCによると、高速ドラムが印象的な“ドラムンベース”というサウンドを取り入れたこの2曲。ジャンルは同じであっても使う楽器が異なれば、全く雰囲気の違う音楽になることを楽しんでほしいと、このセットリストにしたそうです。

 

 確かにどちらの作品にもバトルシーンがありますが、『からくりサーカス』はとにかくシリアスなのに対し、『DOUBLE DECKER! ダグ&キリル』はドタバタコメディも混ざったもの。その激しさの種類は、ちがって当然です。どちらの楽曲もドラムンベースのスピード感あるサウンドが激しさを演出しながらも、「あるるかん」にはアコーディオンで不穏さが、「DOUBLE DECKER!」にはトランペットやサックスで軽快さが加わり、その作品らしさを際立たせていました。

 音楽の実験室のような時間を過ごしたあとは、『ポケットモンスター』「サトシのテーマ」の演奏へ。めずらしくコンペ式で出したというこの楽曲は、お子さんと一緒にお風呂に入っていた時にひらめき、書き起こしたそうです。

 ちなみに赤緑、金銀しか通ってきていない昭和生まれのポケモン世代、大してサトシと顔見知りでもない私でも、この曲を聴いたら「サトシ、久しぶり」という気持ちが芽生えました。

 次に演奏されたのは、死を題材としたアニメ『デス・パレード』より「moonlit night」。作品中のフィギュアスケートシーン用の楽曲で、元男子新体操の選手だったからこそ、スケーターだったキャラクターの気持ちに寄りそった曲が作れるのではないかと思った林さん。その言葉の通り、美しくも悲しいピアノの旋律が、スポーツ選手の孤独やそれでもその競技を愛する気持ちを表現していたように感じます。 

moonlit night

moonlit night

  • 林ゆうき
  • アニメ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 しっとりとした楽曲のあとの空気を「ちょっと譜面を探させてください」というプチハプニングで和ませる、林さん。その後すぐに譜面は見つかり、次の楽曲へ。

 林さんはご自身も男子新体操をしていたこともあり、スポーツものアニメが好きで、音楽を手掛けた作品に感情移入して泣くことも珍しくないんだとか。そんな感情移入をした作品のひとつ『風が強く吹いている』の「We Must Go」が演奏されます。私もこの作品に対する思い入れが強すぎることもあり、演奏を聴いているあいだずっと、キャラクターの表情や走るシーンが頭を駆け巡り、涙が止まりませんでした。

 また林さんは、この作品の映像×音楽のコンサートをしたいとも言ってくださいました。作品を大切に想ってくれている人が、音楽を担当してくれているというだけでうれしくなるものです。

 駅伝作品から襷を受け取ったのは、バレボールの作品。『ハイキュー!!』セカンドシーズンより「“上”」が続きます。烏野高校と青葉城西の試合が思い浮かぶ楽曲に、これまた目頭が熱くなりました。

 

 演奏後、烏野高校排球部のジャージを両手親指で指すポーズをして見せてくれた林さん。これはファンとして、なんともうれしいサービスです。

 そして、あっという間に最後の曲を迎えます。『僕のヒーローアカデミア』より「My Hero Academia」。ここで終わりでなく、むしろ始まりを告げるような楽曲をラストに持ってくる構成に、「もう一生ついていきます」という気持ちにさせられました。

 あっという間すぎるステージに、もちろん拍手が鳴りやむわけがありません。 暗転したステージに再び登場したのは、サックスとトランペット、そしてバンドミュージシャンの皆さん。そして軽快な『リーガルハイ』の「LEGAL-HIGH」のイントロとともに、林さんも再登場。この曲ではすることがないからと客席におりて餅を配り始めたかと思えば、ステージに戻りダンシング尻タンバリンを披露してくれる林さん。キュートが過ぎる。そして 楽曲はもう、ファンキーが過ぎる。脳内を埋め尽くす古美門研介のどや顔が過ぎる。楽しい時間の権化といっても過言ではない時間が、ここにはありました。

 

 そしてアンコールのラストは、『僕のヒーローアカデミア』より「You Say Run」。私が、林ゆうきさんという作曲家を知るきっかけとなった曲です。ヒロアカのストーリーと深くリンクする楽曲は、目の前に映像がなくたって、脳内でヒーローの卵たちがさまざまな壁を乗り越え突き進む姿を再生してくれます。

 劇伴音楽を知るきっかけとなった大好きな一曲で、コンサートは終了。コンサートが終わって数日がたった今もなお、心の中の私のスタンディングオベーションは終わっていません。

きっと誰もが誰かのヒーロー。人柄あふれるあたたかなコンサート

 実は今回のコンサートは、リアルタイムでの配信もされていました。配信をするに至った理由は、林さんのnoteに書かれています。

 

note.com

 

 住んでいる場所や家庭の事情で参加したくてもできないファンのために。また、今の社会をとりまくさまざまな問題に、音楽を通して何か役に立てたら。そんな想いから、配信を楽しみながら気軽に募金もできる試みをした林さん。もし私が林さんの立場だったら、とにかくコンサートを成功させることに必死で、ここまで考えられなかったと思います。

 さらに林さんは、新体操選手から作曲家に転身したご自身のことを「チンピラ作曲家」だとおっしゃいました。だからこそ、レコーディングやコンサートで自分の曲を演奏してくれるミュージシャンの皆さん、そして聴いてくれるファンの存在が励みであり、林さんにとってのヒーローなんだと伝えてくれたのです。

 この話を聞いて、どんなにすごい人でも周りの支えがなければ立てない、つまり誰もがみんな誰かの支えになっていると、あたりまえだけれども忘れがちなことを、あらためて見つめ直せました。

 楽曲のすばらしさはもちろん、林さんの優しいお人柄が伝わってきた、今回のコンサート。ますます林さんと林さんの作る楽曲が、大好きになりました。2020年も、音楽を担当している作品が続々決まっているとのことなので、テレビや映画館で聴けるのを楽しみに待ちます。

劇伴音楽に耳をすませば、心の栄養が増える、かも

 劇伴音楽は、不思議です。

 決して作品の流れを邪魔をしない存在でありながら、その作品を象徴するような力も持っている。しかも、その作品のシーンだけでなく、観ていたときの気持ちや周りの風景までよみがえらせてくれることもある。

 私がこのことに気付けたのも、アニメを通して林ゆうきさんを、そして劇伴音楽を知れたからだと思っています。

 まずはそのシーンの後ろで流れている音楽に耳をすます。
 そして、ぐっと引きつけられたシーンの音楽だけを聴いてみる。

 こうすれば普段の生活で映像がなくとも、時に燃えたぎり、時に穏やかになる、そんな心の栄養を気軽に注入できるかもしれません。私は仕事でへこんだ時に林ゆうきさんの曲を聴いて、「よし、やろう」という勇気をもらっています。

 

林ゆうきさんの楽曲がたくさん聞けるSpotifyはこちら⇓