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今の世の中、「まあまあ」って言える? 『恋と国会』が導くライトで本質的な政治参加への道

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「日本まあまあじゃん」って国にできないかなって思ったの
(『恋と国会』1巻第九話より引用 ©西炯子/小学館)

 とりあえず選挙には行っている——。

 30歳を超えてもこんな感じでしか政治に関心がなかった私に、このセリフはやさしくもガツンと響きました。

 今回は前代未聞の国会ラブコメマンガ『恋と国会』をご紹介します。

元地下アイドル、国会へ参上

恋と国会 (1) (ビッグコミックス)

 

 『恋と国会』は国会を舞台としたラブコメ作品です。ちなみに1巻時点では特にラブ要素はありません。

 主人公の山田一斗は、新人国会議員。彼女はもともと、「涙目マリオネット」という地下アイドルグループに所属していました。

 元地下アイドルがなぜ、選挙に出馬し国会議員になったのか——。その理由が、冒頭のセリフに関係してくるのです。

 涙目マリオネットには、一斗が唯一「自分よりかわいい」と認めていたかりんという最年少メンバーがいました。かわいくて歌が上手くてグループ内で一番人気。事務所にも推されていたので、グループがダメになってもアイドルとしてやっていけるだろうと思われる存在でした。しかし彼女は、自身の成功ではなくみんなで売れることを信じるやさしい女の子だったのです。

 そんな彼女はある日、ライブに来ませんでした。不思議に思った一斗は、かりんの家を訪れます。そしてそこで目にしたのは、「日本、クソ」と遺書を残し自ら命を絶ったかりんの姿でした。

 実はかりんは、無戸籍児でした。生みの母親が元夫のDVから逃れて彼女を産んだため、出生届を出せなかったそうです。しかも生みの親とは死別し、兄弟とともに養親のもとへ行くこととなります。

 養親のもとでの暮らしは、かりんを苦しめました。自分で稼いだバイト代とわずかなライブ代をせびられる日々。そんな日常から逃げるため彼女は、兄弟とともに家を出たのです。しかし戸籍がないせいで安定した職に就けないかりんは、生活のために体を売っていました。そして、自殺という選択を取ったのです。

 若い女の子が自殺に追い込まれる——。こんな現状をなんとかしたいという思いが、国会へと一斗を突き動かしたのです。

まるで代弁者。一斗のセリフと行動にうなずきと拍手が止まらない

 議員一年生。右も左も分からない国会という場所であれば、自分が取る行動にも慎重になりそうなものです。

 しかし一斗は違います。彼女は総理大臣にふさわしいと思う人に投票する「首班指名」で、なんと自分に票を入れたのです。

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 過労死した人のことを厄介者扱いする人、偉い人にはゴマをすり新人には暴言を吐く人、国民の声を騒音扱いする人。

 こんな国会議員の中に国のリーダーとしてふさわしいと思える人がいないと思った一斗は、自分に票を入れ総理になると堂々発言したのです。 

 しかし政権与党の党首が選ばれることが当たり前の首班指名。もちろんその党に所属する議員であれば、党首に投票するのが当然というものでしょう。秩序を乱すこの発言が問題にならないわけがありません。この発言により一斗は、幹事長から呼び出しを食らい除名の危機にさらされます。しかし彼女は「器の小さい政権与党だと評価されては困る」というとりあえずの理由で、除名を免れました。  

 彼女のトンデモエピソードは他にも。とある大物議員の政権パーティーであいさつをすることとなった一斗。一斗はいつの間にか彼女の世話係のようなポジションになってしまった、同じく新人議員で世襲議員の海藤福太郎から、大物議員の顔に泥を塗ることがないよう模範的なスピーチを覚えるように言われます。しかし一斗は、正論で目の前の政治家たちを無能よばわりする挨拶をかましたのです。 

 さらに一斗のはたから見たら暴走ともとれる言動は、総理の所信表明の場でも。

 

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 総理の発言に違和感が出た瞬間、原稿を飛ばしていることを大声で指摘する一斗。怖いもの知らずを絵にかいたような新人国会議員がここにいる。読み進めるたびに怖さを超越して爽快感が味わえます。

 ただ私は、彼女の突飛な行動だけに惹かれているわけではありません。彼女は、政治参加に消極的な私ですら感じている政治や政治家に対する「おかしいな」を、はっきりと言葉にしてくれたのです。特に「さしかえ」のストーリーで見られる彼女の言動は、まるで私の心を代弁してくれているようでした。

 

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 恥ずかしながら私は、国会における委員会の存在をぼんやりとしか認識していませんでした。だからマンガ内で取り上げられた、採決を取るだけの「さしかえ」なんて知る由もありません。

 さしかえとは、各委員会で採決を取る際に全委員の半数以上がその場にいなければならない「定足数」を割ることのないよう、代理の人間を立てる政権与党内の暗黙ルール。代理人を立てる理由は、委員会を掛け持ちしていたり、その日に別の予定が入ってしまったりしてその委員会に所属する委員が欠席するからだそう。しかもその代理人は話の内容を一切理解せず、採決の起立だけをして議場を去っていくことも珍しくないそうなのです。大物にも正論を言ってのけた一斗は、この暗黙ルールが理解できません。

 

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 そんな一斗に対し福太郎は「国会は与党が出した法案を通していくところだ」「これが民主主義だ」と、淡々と述べます。一斗は「国会は法案の内容を話し合う場ではないか」「少数派の意見も聞くべきではないか」と反発しますが、「一年生の仕事はさしかえだ」という福太郎の言葉どおり、先輩議員からのさしかえの依頼にしぶしぶ対応していくことに。

 

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 ただやはり彼女は、何の法案に賛成しているのかもわからない暗黙ルールを受け入れられません。そして私も、国を動かす法案がこんな適当な感じで決まっている可能性を知り、落胆しました。

 ただここで一斗の魅力が炸裂します。彼女は、読者の落胆を明るくありのまま言葉にしてくれるのです。私は彼女の言葉に何度もうなずき、拍手を送り、彼女の存在に救われました。

政治に疑問を持つきっかけに「まあまあ」を

 私はこのマンガに出会うまで、政治のことをあまり口にしませんでした。政治は難しいこと、たいして知識のない私みたいな庶民には発言する権利はない。こんな風に思っていたくらいです。しかし一斗の、「日本まあまあじゃん」って国にできないかなって思ったの、というセリフにこの感覚をぶち壊されました。

 

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 きっとこれまでの私には、政治参加の軸がなかったのだと思います。難しく考えすぎて、政治参加のハードルを妙に高くしていたのかもしれません。

 今、私は「まあまあ、にすらなっていない」という視点、というか直感で、国の動きを見ています。「おかしいな」と思ってもすぐに発言することは控えますし、発言したところで「やっぱり間違えてたかもしれない」と思うことはまだまだあります。恥ずかしながら、デマに踊らされることもなくはないです。

 ただ最近の政治や政治家の動きに、このままいくと民主主義が壊れてしまいかねない恐怖を感じています。だからこそ、難しいから関わらないという姿勢はやめようと思うようになりました。

 政治は理想と現実のバランスを取らなければ成り立たない、一生攻略できないゲームのようなものだと思います。国民全員の「こうなったら社会はもっとよくなるのに」を叶えていたら、お金をはじめ様々な資源が足りなくなるでしょう。だから私は政治に完璧は求めていません。「なぜその法案が必要なのか」「本当に今そのことについて話すべきなのか」という部分をしっかり聞いて、納得できるかどうかを大事に政治を見ているところです。

 そしてこの政治参加のあり方に、「まあまあ」という言葉がしっくりくるなと感じています。言葉自体はとてもライトですが、とても本質的だと思うのです。だから私は、山田一斗議員が目指す国のあり方を現実世界の政治を見る軸として活用していきたいですし、こう思うきっかけをくれた山田一斗議員にありがとうと伝えたいのです。

 

恋と国会 (1) (ビッグコミックス)

恋と国会 (1) (ビッグコミックス)

  • 作者:西 炯子
  • 発売日: 2019/11/29
  • メディア: コミック